雪割草
 「いえ、本当に大丈夫ですんで……。」

 シローの頑なな様子に、老婆は「そうかい」観念したように、

「ほしたら、ここに座って待っていなされ」

 そう言うと、サツマイモ畑へと戻って行った。

シローはその年老いた後ろ姿を見ていると、自分の母親の面影が重なり合ってゆき……。

「すっ、すいません!」

 老婆を呼び止め、

「俺にも手伝わせて下さい!」

 一緒にサツマイモ畑へと足を向けて歩き始めて行った。

 長閑な風景の中に広がる老夫婦のサツマイモ畑で、シローは額に汗して収穫を手伝った。

広々とした畑のほぼ中央に二人は並ぶようにして、サツマイモ掘りに精をだした。

「あんたは、歳なんぼだい?」

 せわしく手を動かし、老婆は土にまみれている。

「はい、四十二です」

 隣りの畦で作業を続けながらシローは答えた。

「へえー、思ったより若いんだない」

 老婆は少し手を休め、

「うちらにも、ちょうどあんたぐらいの息子がおったけど……。

十年前に交通事故で死んじまった……。」

 彼女は立ち上がりながら、シローの畦の前に暗い影を作っていった。

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