雪割草
 「ありがとうございます」

 シローは深々と丁寧にお辞儀を繰り返した。

「別に捨てようとしていたタイヤじゃ……。かまわんよ」

 その言葉を残すと、老人は家の中に入って行き、入れ代わるようにして、玄関先から老婆が現れた。

そして、手に持っていた白い封筒をシローに手渡し、

「少ないけんど手間賃じゃ」

 一言付け加えてから握らせた。

「えっ、そんな困ります。

リヤカーを直してもらって……。

しかも、こんなものまで……。」

 その中身がお金である事を察すると、躊躇しながら封筒を返そうとした。

「ほんの気持ちだ……。

なんとなく、久しぶりに息子と喋ったような……。

そんな不思議な感じじゃった……。

少ないけんど、受け取ってくんち……。」

 老婆は曲がった腰を、更にかがめた。

ゆっくりとシローは手を差し伸べ、

「そんな……。

頭を上げて下さい」

 老婆の手を握っていた。

細くて……。

折れそうな程細くて、たくましい手だった……。

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