雪割草
 老婆の愛くるしい表情を見ていると、おぼろげな母親の面影が目に浮かんだ。

「きっと……。

きっと、お孫さん達は、お二人に会いに帰って来ますよ」

 不意にシローの口から言葉が出ていた。

「俺は二十数年振りに福島に帰って来ました。

夜の星空は小さい頃に見た、あの時のままでした。

時が移り変わってしまっても、変わらない心もあると思います。

絶対に……。」

 老婆は心なしか、シローの手を強く握り返していた。

「ありがとうない……。」

 彼女の声は震えていた。

段々と震える波が大きくなって来るように伝わってきた。

シローは後ろ髪を引かれる思いを断ち切り、直ったばかりのリヤカーを引き始めた。

「お元気で!」

 見送りに立つ、老婆に向かって声を張り上げた。

「達者でな!」

 老婆も細い声を振り絞り、大きく手を振っていた。

それに応えるように、シローも手を振りかざした。

掲げた手のひらには、彼女の温もりが残っているように感じた。

 小さな老婆の姿が見えなくなってしまった頃、シローは四号線に辿り着いていた。

歩道に立ち止まり、これまでの足跡と思い出を振り返り胸が騒いだ……。

たくさんの人達がシローの夢を支えてくれた。

耳を澄ますと、次から次へみんなの声が届いてくる。

シローは遠くを見据え、歩き始めた。

美枝子のふるさとまでは、あともう少しだった。

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