雪割草
 それでも足元は雪で滑りやすく、じわりじわりと崖っぷちに追い込まれてしまう。

「くそー!」

 この寒空の中、シローの吐く息は白く滲んでいくのに、体中から火照った湯気がほとばしっていた。

ズサッと小さな雪崩が起こり、遂にはもう片方のタイヤも崖下に飲み込まれる寸前に陥った。

両足はリヤカーの下敷きになり、身動きがとれない。

シローは力尽きたかのように、半分気を失いかけながら倒れ込んでしまった。

美枝子を包んだブルーシートが、吹雪の中にさらわれて行くようであった。

薄れゆく意識の中で、最後にシローは美枝子の姿を見定めようとしていた。

下手な口笛を吹き続けるような北風が、耳障りに鳴っている……。

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