雪割草
 シローは家へ戻ると、今までのいきさつをすべて美枝子に話した。

シローの思い詰めた表情を察しながら、美枝子は正座を崩したような女性特有の座りかたをすると、言葉を記憶の中から探した。

「私は、ここが好きよ。

私の田舎の家の近くにも丘があって、そこから見る安達太良山に沈む夕日はとてもきれいだった……。

この公園の丘から遠くのビルに沈む夕日は、それと似ているわ。

とても落ち着くの……。」

 静かに目を閉じながら言った。

美枝子の一言がシローの背中を押してくれたように思えた。
此処に留まろうーーーそう心に決めた。

シローは美枝子の手を握り締め、オイルランプの下で二人は重なり合った……。


 一夜が過ぎて、いつもと変わらない朝が新宿中央公園に訪れていた。

ただ、段ボールハウスの件数が半分になっている事以外は……。

シローは外に出て虚空を見上げた。
ニシヤンとチュンサンが、シローの肩に後ろからそっと手を置いた。

遠くのゴミ箱の中には、使い古された段ボールが無造作に捨てられてるのが見えていた。


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