雪割草
 せっかくのリンゴ飴を美枝子は落としてしまった。

ぶつかった女の子は一瞬後ろを振り向いたが、知らん顔をして、そのまま駆け出して行った。

 川の流れが大きな石に躓くように、その場所を人波が避けて通った。

 美枝子は瞳を潤ませ、アスファルトの上のリンゴ飴を拾おうとしていた。


たいせつな、大切な落とし物だったから……。


 シローは屈んだ美枝子の肩を抱きしめ、白く透き通った細い腕を取ると、かぶりを小さく二回横に振った。

「そうだね……。」

 すぐにさっきの露店に戻り、もう一本リンゴ飴を買って来ると、泣きべそ顔をした美枝子に手渡した。

「ありがとね……。シローちゃん」

 彼女の頬がほんのり赤く染まった。


 帰り道、二人でリンゴ飴を頬張りながら、公園の遊歩道を並んで歩いた。

無言のままで、心を交わしていた。


美枝子はシローの肩にそっともたれかかり、リンゴ飴がこれ以上小さくならなければいいのに……。


と、祈っていた。

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