雪割草
 シローは列に並ぶ事なく佇んでいた。

足元に転がっている小石を蹴りながら、

゛そういえば、ガキの頃……。
兄貴達との缶蹴りでは、いっつも俺はミソッカスだったけ……。゛

 ふと、そんな昔の事を思い出していた。

 やがて公園中に朝のサイレンが鳴り響き、つられるようにシローは空を見上げた。

手をかざし碧空を眺めていると、視界の隅に映った楓の木を美枝子と見間違えてしまった。

大きな溜め息をつき、シローは足元の小石に視線を戻した。

爪先で小石を突つついていた。

「あれっ!美枝子さんじゃないか?」

 耳元に囁かれた声に気付き、さっきの楓の木を見返してみた。

美枝子だ!

確かに美枝子の姿がそこには在った。

シローは無意識のまま、片足を引きずり駆け出していた。

小高い丘の遊歩道を、美枝子は後ろに両手を組ながら、ゆっくりこっちに向かって歩いて来た。

朝の光は逆光となり、彼女の姿を浮かび上がらせていた。


゛美枝子!゛

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