雪割草
 車輪は回り続けていた……。

アスファルトを捉える音が、虚しく響いていった。

新宿の高層ビルには、灯りが灯り始めていた。

シローはリヤカーを引き続け、ビルの谷間を走り続けた。

まるで、無風の中に風車を回す、子供のように……。

そんな、シローの様子を伺い、

「シローさん!止まれ!」

 ニシヤンが、荷台を押しながら声をかけた。

シローは止まらなかった。

止まる事など、出来はしなかった。

ニシヤンはもう一度、声を張り上げ、

「もういい!シローさん止まれ!」

 荷台から手を離し、立ち竦みながら、背中を向けて涙を流した。

チュンサンも手を離し、歩道に身を沈めて涙を落とした。

ようやくシローは足を止め、両膝を地面に着いてハンドルを胸に抱えた。

 何度も肩で息を繰り返し、平伏した体内の奥から込み上げる空虚を吐き出した。

シローは現実を受け止めようとは、していなかった……。

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