雪割草
「ありがとう」

 シローと美枝子は向かい合いながら箸を進めた。

決して満腹になるという事の無い質素な食事だが、こんなささやかな時間が二人にとっては至福の時であった。

 食事が終わると、美枝子は公衆トイレの水道に食器を洗いに出て行った。

シローは眠る準備を始め、部屋の隅に畳んで置いた毛布を広げ、その上に更に新聞紙を広げた。

 食器を洗い終えた美枝子が戻って来た頃には、シローは疲れていたのか寝息を立てて眠り込んでしまっていた。

美枝子は目を細め、シローの額にふうっと息を吹きかけた。

 気がつくと遠くの小学校から二時間目の終わりを告げる、チャイムが聞こえてきた。

 木漏れ日の新宿中央公園。

確かに、そこには生活というものがあった……。


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