雪割草
 入り口の扉を横に開くと、もう朝日が出ている時刻だった。

開いた扉の分だけ、冷たい風が入ってきた。

 シローは表に出て、大きく息を吸い込んだ。

目の前の国道を、時折数台の車が通り抜けて行く。

 シローは裏通りに隠して置いたリヤカーに歩み寄り、荷台に荷崩れがないかを確認した。

 ふと、昨日の夢の断片を思い返していた。

瞬きをする度に、美枝子の動作が細かく再現されてゆく。



リヤカーのハンドルを固く握ると、もう一度大きく息を吸い込んだ。

 朝日が照らすアスファルトには、紫色のシートが敷かれているようだった。

シローは瞬きを繰り返し、ゆっくり歩き始めた。

北に進路をとりながら……。

そこに迷いの欠片も無かった。

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