恋愛妄想
ピアス
まさに、はがいじめ。
友達二人がかりで押さえ付けられ、
あたしは拳を握り締める。
「すぐ終わるんだから、暴れるんじゃないよ」
「大丈夫、最初は痛いけど痛いのは最初だけだし」
美保子はあたしの両手をギュッと握り締める。
直美はあたしの顔を掴んで…

「い…いやだぁ…やっぱやめ…」

バチン!


右耳にバネが弾くような音が残り、
ジンジンと痛みが走る。

「痛いじゃんかよ…」
涙目で訴えると直美は
「あんたが開けたいって言ったんよ、ピアス」

もう一騒ぎしてあたしの耳朶には
誇らしくピアスが光る。

「ナオ、おかーさんは大丈夫?怒られたりしない?」
「ん…たぶん…」
想像したくなかった。


結局あたしは学校を辞めてしまった。
おかーさんはかなり怒ったけど、
この先どうするの、とあたしに最大の難関な質問をした。

全く考えてなかった訳じゃない。
実際ハローワークも在学中から何度も覗いたし。

「普通の女の子なら結婚って手もあるけど
あんたは器量悪いし 気も利かない…」
おかーさんはため息混じりにそう言った。

あたしだってわかってる。
好きな人だっていないし、20歳で結婚なんて考えた事ないし…


空気がよどんだ。
直美の携帯が鳴った。

「は?合コン?なにそれ」
あたしと美保子は目を合わせた。
「合コン、行きたい」
どちらかともなく呟く。

合コン!



あたしは我にかえった。
スタイルいいとは絶対言えない。
顔だって、地味で十人並みから離れ過ぎ。
そして「器量最悪・気が利かない」のおかーさんの太鼓判つきのこのあたし。


さらし者、っていうか
笑われ者、っていうか
場違い確定。

そんなことを考えているうちに
話は決まった。

「んじゃ、今度の土曜日。時間7時で」
直美はVサインを作りながらあたしたちを見た。

あたしは少し絶望にさいなまれ、おかーさんの事を忘れていたけど、
もちろんピアスはすぐばれて
こっぴどく叱られた。
もちろんパンチ付きで。
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