青空と銃声
Opening
 
下から風が吹き上げていた。
 
険しい斜面を這い上がった西風が、崖に立つ二人の男の髪をなぶっていく。
 
「……あそこか」

青空を背負いながら、崖下を見降ろして長身の男が口を開いた。
その視線の先にあるのは、豊かな森に囲まれた村だ。子どもが多いのか、甲高い笑い声が微かに彼らの耳にも届く。

「ったく、やっとかよ。どんだけ遠いんだっつの! しかもまだこの崖、迂回しなきゃなんねーし……」

その隣でめんどくせー、と声を上げるのは灰色の髪の男だ。すっかり疲れ切った様子なのに、良く喋る。

そんな彼をうざったそうな目で見た長身の男は、「楽がしたけりゃ飛び降りろ」と相方に吐き捨てる。

「はあ? 無理無理、死んじゃう――って、おい!!」

視界の端で、相手の左腕がこちらに伸ばされたのを見て、灰色の彼が思わず避ける。

だがここは足場の悪い断崖。それもぎりぎりの場所だ。
とっさに動いた彼が足を踏み外したのは、果たして長身の男の計算の内だったか。

右足を置いた地面が消失し、ぐらりと後ろに体が傾いだ。

「……――れ?」

間抜け面と無表情が数瞬見つめ合い。

すぐに。

灰色の髪が、男の視界から消えていった。

突き抜けるような壮絶な悲鳴が鼓膜を震わせ、砂利が擦れ合うような音と……色々痛そうな音が続く。

 
長身の男は黙ってそれを見送り、やがて、くるりと背を向けその場を立ち去っていったた。




彼らが去った後も、残された空は、突き抜けるような青色をしていた。


(『青空と銃声』―opening― 了)
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