そして、抱きしめて。
金曜日
ブーブブッーブーブブッ…。

退社時間になり、
鞄の携帯が鳴り出す。
メールだ。


〔宛先〕 真崎
〔件名〕 Re
〔本文〕
今日会えないか?
20時にいつものレストランで。



そういえば、今日は金曜日。
毎週金曜日にメールが来る。
真崎 省吾、不倫相手。

ゆるゆるとそんな関係をもう三年近く続けている。


いけないこと。

そんな事は解っている。

でも、寂しさを埋めて生きて行くにはこれしかない。




『いやぁ、参った参った。先方が帰してくれなくってさ。』


待ち合わせの20時を軽く過ぎ、21時少し前、彼は来た。


『最近待ち合わせに遅刻してくるよね』

『しょうがないだろ。色々付き合いが増えて来たんだよ。』

『他にも女がいたりして(笑)』

『ないない。女はお前だけだよ。あっ、嫁さんもか(笑)』

『(笑)』
『(笑)』

ここ数年は、待ち合わせ時間に来たためしがない。

自分で約束しといて…と前は思っていたけど、最近はあまり考えなくなった。
ゆるゆる関係。
そんな関係だから、長く続けられるのかな、と思うようになった。

オーダーを取りに来た店員に適切に指示を出し、メニューをさらりと見て注文をする。

そんな態度にも惹かれたのかもしれない。


料理とお酒を軽く済ませると、あたしは彼に抱かれる。


『ゆき…。』
時折漏れるあたしを呼ぶ声に、感じる。


やっぱりあたしは、この人がいないと寂しさを埋める事なんて出来ないと感じて、深い深い、闇にすぅーっと吸い込まれていってしまう…。

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