実話〜Jituwa〜
~あとがき~
この出来ごとは、怖かったというより、悔しい出来ごととして記憶に残っています。
このAさんは、一人暮らしではありましたが、息子が時々家に帰り、Aさんに対して暴力を奮っていたらしく、他のお客さまより早くお風呂に入るのは、体の痣や傷を見られたくなかったからでした。
なので、私たちは、特に気を配っていました。
実は、Aさんは、私たちスタッフを信用して、息子のことを話してくださり、別な施設へ避難して身を隠すことになっていました。
―――それが、あの日でした。
入浴後、移動するはずでした。
極秘事項だったのにも関わらず、どこから話しが漏れたのか、そのことを知った息子が逆上して起こした事件でした。
あの日私は、いつも通りに来てくれて、心から安心していました。
痛々しい体の痣や傷、そして、苦しい気持ちから解放されて、Aさんの笑顔がみたいと思っていました。
普段のAさんには笑顔がなく、顔に陰りがあったりして、本当に心配していました。
「たまには、こっちのお風呂にも入りに来てね!」
―――私が最後にかけたAさんへの言葉でした。
それに答えてくれたAさんの顔を私は、覚えていないのです。
少し足を引摺り、後ろ手に手を振ってくれた姿だけが記憶に残っています。
それは、夢ではありません。
お風呂場担当のスタッフは、常時、二人なんです。
二人で体験したお話しでしたから……。