五里霧中



今日はあの男が来なかった。


そのかわりに嫌なのが来た。


双子の兄だ。


汗だくになって自転車を漕いで。


私を見つけてはホッと胸をなでおろしていた。


「……いじめられてない?大丈夫?」って。


消え入りそうな声で尋ねるんだ。



私によく似た冷たい瞳で覗きこんで、


「……オレのことは警戒しないで」って。


泣き出しそうな声で笑うんだ。



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