月夜に舞う桜華



しかし、桜に触れる寸前にあたしは手を止めた。
誰かに呼ばれた訳でもないが、背後に人の気配がする。


何気なく肩越しに振り返ると、学ラン姿の見知った男が立っていた。


『―――桜姫』

『和……』


伸ばしていた手をゆっくりと下ろす。


『来ちまったなぁ』


ハハッと和は哀しそうに笑う。
どこに、とあたしは聞き返そうとしたが、脳裏を過った光景にそうだったと思い直す。


あたしは、和に刺されたんだった。


『………お前が望んだことだろ?』


あたしは、腰に手をやって溜め息をついた。


『お蔭であたしは二度死んだ』


誰が好き好んで二回も死ななきゃならないのだ。死ぬなんて一回で十分だよ。


『仕方ないだろ』

『仕方なくねぇよ』


馬鹿、とあたしは毒づいた。


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