月夜に舞う桜華



―――――つばき。


『………さく、や?』


―――――椿、椿……。


あたしの名前を呼ぶ声。
それは紛れもなく朔夜の声だ。
懐かしい、温かくて優しい声。


『桜姫、どうした?』

『朔夜の声が聞こえる』


和に聞こえないか聞いてみると、和には聞こえないらしくあたしにしか聞こえていないようだ。


『……なんで、朔夜の声が…』


聞こえてくるのだろう。
すると、ツンッと鼻が痛んで目に涙が浮かんできた。


『………桜姫』


スッと和の手が離れていってハッと和を見る。


『和、どうした』


和は、フッと笑みを浮かべると、あたしより一歩先に出た。


『………桜姫とは、ここでお別れみたいだ』

『?』


一瞬、何を言っているかわからなかった。


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