敬遠投手
プルペンの電話がなり、出番の来た仁藤はチームメイト集まったマウンドに行った。
いつもとは違う気迫で投球練習をする。
最後の球を放った後、捕手の鈴木がマウンドに駆け寄った。
「じゃ、いつもどおりな。頼むぜ。」
そう言うと、ボールを仁藤に渡した。
「いや、今日は勝負したい。」
「え?勝負?どうするんだよ。勝ち目はあるのか?1アウトランナー2塁で、前の打席でホームラン打った4番の兼本だぞ。ここは絶対敬遠だろ。」
「いや、それでも今日だけは勝負をさせてくれ。頼む…」
「いいよ、但し、俺はどうなっても知らねぇからな。」
そう言うと鈴木は定位置に戻り、低くミットを構えた。
ファンはどよめいた。
敬遠投手なのに捕手が座ったことに…。
マウンドで大きく息を吐き、ワインドアップから一球目を放った。
力が入りすぎたのか右手から投げられた球は大きく左にそれた。
「ボール。」審判がコールする。
ファンのどよめきはいつしか収まった。
やはり、勝負はしないんだという空気に包まれた。
2球目。
仁藤は同じようにワインドアップから球を放った。
1球目と同じような球筋だった。
3球目。
肩をリラックスさせ、ミットだけを見て仁藤は投げた。
「ストライク!」
兼本は呆然とした。
ファンからは再びどよめきが起こった。
4球目。
ミットを見つめて、投げた。
ドスンというミットの音に遅れて、ブンというスイングの音がする。
5球目。
ただ、ただ、力一杯投げた。
ボールは無情にもバットに当り、マウンドをすり抜け、そして二塁ベースに当り大きく跳ねた。
跳ねたボールは遊撃手の正面で捕球され、目の前にいた二塁ランナーをタッチし一塁手にボールは投げられた。
アウトは2回宣告された。

仁藤がファンのほうに目をやるとファンはスタンディングオベーションで迎えていた。
その惜しみない拍手は敵のファンからも起こっていた。
惜しみない拍手は球場内を暖かく包み込んだ。
< 2 / 2 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:0

この作品の感想を3つまで選択できます。

  • 処理中にエラーが発生したためひとこと感想を投票できません。
  • 投票する

この作家の他の作品

彼女

総文字数/1,224

恋愛(その他)1ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
未編集

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品をシェア

pagetop