幕末怪異聞録
「何か文句でもあっか?」
時雨が低いドスの利いた声を出すもんだから、原田は「ないです。」としか言えなかった。
落ち着いた二人を見た永倉は、時雨の耳元に顔を寄せた。
「(時雨、今長州の奴らが不穏な動きを見せてるんだ。巻き込まれねぇように注意しろよ?)」
「え……?」
「何かあれば此処を頼れ!!いいな?」
バシバシと肩を叩く永倉に時雨は、
「――先に頼ってきたのはそっちだろ…。」
そう呟いたが、大勢の見送りに堪えれなくなったのか、くるりと背を向けた。
「じゃ、世話になったな。」
「あ、時雨照れてる。」
「今日は犬鍋かー……。」
「それは止めて!!」
時雨と狼牙のやり取りも見納めかと思う幹部連中。
そんな空気にも時雨はあっさりとしていた。
「みんな元気で。
土方も!」
柱にもたれている土方に笑いかけると、顔は向けずに手を上げた。
これも彼なりの挨拶なんだろう。
こうして新選組の屯所を出て行った―――――………