幕末怪異聞録


『そんで?
何か用があって来たんちゃうの?』



妖美に笑う梅に対し、楽に座る灰鐘。



「特に用はない。」


『え?』


「まぁ、部屋の空気悪くなってないかとか、何故この部屋からあんたが出ないのか…
とか思って。」



梅は今いる部屋から一歩も出ようとしなかった。


それが腑に落ちなかった。


「部屋から出ればいいのに。
楽しいぞ?外の世界も。」


『ええのよ。
芹沢はんと最期におったこの場所から離れたくないんや…。』


「…。」


寂しそうな瞳を浮かべ外を眺める梅。



(あの時の私と同じ…。

その場から動くことができなかった私と


同じ…。)



はぁ…と溜め息を吐いた。



「まぁいいや。
無理に出る必要はないしな。

それじゃあ、また来るから、またな。」


そう言って部屋をあとにした。



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