クロトラ!-妖刀奇譚-
――再び風が吹いて、また大きな雲が月をさえぎってしまった。
今度は真の暗闇にはならなかったが、互いの姿がただの黒い影に変わる。
「…"クロトラ"?」
ワサビの声は無表情だった。
どういう感情でそう聞き返したのか、少女からは見えない。
「うん、"クロトラ"。刀の名前なんだ。
かなりの名刀らしいから、刀持ってるヒトなら知ってるかなーと思って聞いて回ってるんだけど。」
「名刀、ね。」
少女は答えなど期待していなかった。
もう1ヶ月以上、その答えを知る者などいなかった。――今日の獲物だった警官のように、知っているフリをするヤツはいくらでもいたが。
だから、次にワサビの口から飛び出した言葉は、少女を驚愕させた。
「そいつは"クロトラマル"のことか?
玄武の"玄"と"虎"に丸と書いて"玄虎丸"と読む…」