クロトラ!-妖刀奇譚-
「…え?」
呆けたように目と口を全開にした少女に、ワサビはさらに言う。
「違うのか?
あんな妙な名前の刀なんぞ他に聞いたこともないから、たぶんアンタが探してるモンに違いねぇと思うが?」
少女が次の言葉を口にしようとした瞬間、突然大勢の足音が遠くから聞こえてきた。
「…警邏隊か。」
小さく舌打ちすると、ワサビは橋の上に戻って来た。
「このお巡りさんの仲間かな?」
相変わらず気絶したままの久坂をあごで示した少女にうなずいて、ワサビは風に耳をすました。
「――ざっと10人以上はいるな。しかも抜刀隊の連中だ。
まっすぐこっちに向かって来る。」
少女は驚いて傍らに立つ男を見上げた。
…いくら深夜で静かだからといって、土に和らげられた足音を即座に聞き分けるなど人間技ではない。