涙飴
きっと見たらまた辛くなる。忘れられなくなる。
だから、会いたくない。

パンフレットに載っている五組の宣伝には、大きく『お菓子の家』と書かれていた。


お菓子の家……。
その言葉は、あたしの好奇心を掻き立てる。

行きたい……けど…。


「ね?行こー!」


「え!?ちょっと……」


美津菜はあたしの腕を掴むと、強制的に五組へと向かった。



なんてメルヘンチック。

チョコレートのドアに、ビスケットで囲まれた窓。
壁には人型のクッキーやペロペロキャンディなんかが至る所に飾られている。

勿論本物ではなく、絵で描かれている物だ。


「すごい凝ってるねー……あ!クレープがある!美味しそ~」


少々興奮気味の美津菜に圧倒されながらも、あたしは奥へと足を進める。
クレープの甘い匂いが、辺りに漂う。


「ね!クレープ食べようよ!」


本音を言えば早く出たかったけれど、クレープの誘惑に負けて、あたしと美津菜は列の一番後ろに並んだ。
クレープは売れ行き絶好調の様で、長蛇の列になっている。

あたしは辺りを見回してみたけど、大地の姿は見当たらなかった。
段々と前が少なくなって来て、売り場へ近付く。
一瞬人の頭の間から見えた顔は、あたしが見たくなかった人にそっくりだった。


「クレープ売ってるのって、小野寺じゃない?」
< 76 / 268 >

この作品をシェア

pagetop