俺はお前だけの王子さま
俺はそんな渡瀬の頭に手を乗せた。


渡瀬は明日からも
きっとこんな風に頑張るんだろう。


だけど


「俺は……」


「うん?」


「俺は…渡瀬に期待してねぇ」


「え?」


目を丸くする渡瀬に

俺は渡瀬の頭においた手で、
渡瀬のおでこを軽くはじいた。


「あぅっ…」


渡瀬はおでこに手を当てた。



「マナーってのは…頭で覚えて使えるもんじゃねぇんだよ」



俺が17年かけて体に叩き込まれたものを

こいつが数日で身に付けるのは不可能だろう。


俺の言葉に渡瀬の瞳が少し揺れ動揺を見せる。



だけど、それでも俺は…



俺はためらいがちに言葉を続けた。


「期待はしてねぇけど…」


「…………」


「渡瀬が…毎日来んのは嬉しいから」



そこで俺は渡瀬から視線を反らした。


自分の耳が熱くなるのを感じる。


はっきり言って

はっきり言わなくても明らかにこんなの、俺のキャラじゃねぇ…


だけど

だけど、俺は渡瀬の不安な顔は見たくない。



もう一度、渡瀬を見ると
渡瀬も赤くなっている。


「まぁ…とりあえず明日待ってるから…」


俺はそれだけ言うと、その場を後にした。




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