俺はお前だけの王子さま
渡瀬はいつの間にか手をおろしてそんな俺を見つめている。


「…なに見てんだよ」


ほどき終えた俺が渡瀬を見ると、渡瀬は少し視線を反らした。


「ううん、王子くんて器用だよね。ありがとう…」


そう言いながら、桜色に頬が染まっていく渡瀬。


伏せがちな潤んだ瞳にかかる、長いまつ毛。


紅い唇も、白い首筋も


全てが俺を誘っているように感じた。


渡瀬に触れたい衝動を抑えて、俺は言う。


「もうすぐ授業始まるけど」


俺の言葉に少し寂しそうな顔をした渡瀬。


そんな渡瀬に見えるように俺は内胸のポケットからチャリ…と鍵を覗かせた。


第二音楽室の鍵。


渡瀬はその鍵を見るとみるみる顔を赤くした。


「ダメだよ。授業行かなきゃ…」


「…………」


俺はまた静かに鍵をポケットにしまった。


「んじゃ、教室戻るから。」


「………」


俺は渡瀬に背中を向けて歩きだす。


きゅ…

そんな俺の背中を渡瀬が小さくつまんだ。


「………」


俺が振り返ると、渡瀬は相変わらず赤い顔で俺を見つめていた。


無言のまま、潤んだ瞳が俺を責める。



俺はそのまま渡瀬の腕をつかむと足を進めた。




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