過去の秘箱


沙織がアパートに着いた時には、もう夜の9時を過ぎていた。


   マー君だ!


  背中が見えた!


ちょうど部屋の鍵を閉め、帰りかけているところだった。


私は走って行き、その愛しい背中にしがみ付いた。


「マー君、もう帰ったかと思ったよ…」


きつくきつく抱き付いた。


マー君の背中は、私の涙を吸収した。


昔…おんぶしてくれた背中。


昔…自転車に乗せてくれた背中。


この背中がなかったら生きてこれなかったよ。


「サリーどうした?何かあった?」


マー君が優しい声で聞く。


「何でもない、何でもないけど…お願い、まだ帰らないで…もう少しだけ…側にいて……」


一度閉められた鍵が又開けられ、二人は部屋に戻った。


部屋のライト……一旦点されたが……暫くしてまた消えた……ままごと遊びの舞台セット……。



< 144 / 221 >

この作品をシェア

pagetop