ただ風のように
「……」
その人はカーテンを少し開けて入ってきて、無言で私の顔を見ていた。
誰なんだろう?目を開けたら起きてるって気付かれるし、でも気になる。
「顔色、よくないな。あれだけ強く頭打ったら当然か。可哀想に」
この声、海頼先輩だ。でもどうして海頼先輩がここにいるんだろ?
そんなことを考えていると海頼先輩がベッド脇の椅子に座ったことに気がついた。
海頼先輩はずっと黙って私を見ていて、私はその不思議な沈黙に耐えきれず、目を開いた。
「起きた?吐き気とかしない?」
海頼先輩は優しく聞いてきた。
「だ、大丈夫です」
「良かった。軽い脳震盪だって。目が覚めれば大丈夫って言ってたから、もう大丈夫だね」
「はい。ありがとうございます。あの、誰がここまで連れてきてくれたんですか?」
「ん?俺だよ。俺が抱えて連れてきた」
「なんか、すみません。迷惑かけちゃって」
私は申し訳なく思って謝った。