狂信者の谷
「甘くなど見ていませんよ。何のためにあなたをこの聖地に招き入れたと思っているのです」

 急に気配が沸いた。

 敷石で整地されているほぼ円形の広場の周囲にある幾つもの大岩の影から、黒装束に白頭巾、額に一つ目の刺青を入れたジパドの僧兵が現れた。

 ざっと五十名、それぞれ抜き身の刀や弓矢、数珠を手にしている。

 数珠を持っているのは法術僧だろう。

 彼女の背後にも気配がある。すでに囲まれていた。

「またずいぶん集めたね」

「我々の聖地を荒そうという者には全力で当たらなければならない」

「空水が聞いて呆れてるよ。殺人集団じゃないか、ジパドは。ハダ密の精神は融和と輪廻じゃなかったのかい」

「異教の者に言われることではない。死をもって異教で汚れた魂を浄化してやるだけだ」

「ま、いいわ。さっさと片付けて仕事を済ませたいからね。相手になってあげる」

 言い終わらないうちに、紅は右手でマントを跳ね上げた。
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