あの日の約束
高校からの帰り道の途中にある
小さいけどよく知られたカフェ。
毎週水曜日に結城先輩と
ここを訪れる行為が
気付けば習慣になってた。
「ねぇ、坂下。」
「っ」
突然彼の細い指が
あたしの髪に絡まる
「コーヒーおかわりいる?」
「‥先輩、普通に言って下さい」
彼の意図はわかってる。
突然こんな事をやって
あたしの反応を楽しむのが
彼は何故か大好きなのだ。
それをわかっていても
“突然”に弱くて
「坂下ほんと可愛いね」
「‥‥‥‥。」
クスクス笑う彼は憎たらしい
いつも彼はこうやって
楽しそうに笑うんだ。
だから、きっと―――‥
『誰かの代わりでいいから‥』
あんなに痛そうな顔を
あんなに切なげな声を
あんなに弱くて小さい彼を
あたしは知らなかった
『俺と付き合って‥‥』
彼をそうしてしまったのは
他でもないあたしだった。
ただあたしは‥‥
また笑って欲しかったんだ
『‥‥はい』