Fahrenheit -華氏-

■Lady-killer(色男)


チーン……


エレベーターが8階に到着したことを報せる。


「I'm afraid we're out of time.(残念。時間切れだ)」


俺はジェニーににっこり微笑みかけた。


ジェニーは悔しそうに表情を歪め、


「Shit!」と小さく舌打ちした。


ガー…


エレベーターの扉が開く。





「何…してるんですか?」




柏木さんの声で、俺とジェニーは同時に入り口に顔を向けた。


「かっ!柏木さんっ!!」


柏木さんは薄いファイルを抱えて、無表情に俺を見上げていた。


巻きついていたジェニーの腕を慌てて解くと、


「こ、これはっ」と俺はあたふたと手を振った。


柏木さんは冷たい視線で口を開く。


「部長の女好きは国境も越えるんですね」


妬きもち?とか思ったけど、柏木さんはいつもこんなテンションだし、第一俺に妬きもちをつく筈がない。


「いや!違うんだっ!これはっ」


必死の言い訳も虚しく、ジェニーは俺からさっと離れると、


「Ruka!」と言って柏木さんに抱きついた。


「どうでもいいですけど、ジェニーは部長の手に負える女性ではないですよ?」


ジェニーに抱きつかれて、彼女の肩の向こう側から柏木さんが意味深にちょっと眉を寄せた。


「え?」


「ジェニーは男性に興味がないんです。She's gay.

Understand?」



シズ…ゲイ……



え?



えぇ―――!!








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