Fahrenheit -華氏-

「レーザーで消しました」


とさらりと言ってのける柏木さん。


レーザーで、って想像しただけで痛そう……


「嘘です。ファンデーションでごまかしてあるだけです」


と言ってタトゥーがあるだろう場所にそっと手を置いた。


え?嘘……


「あのさ…前から気になってたんだけど、タトゥーの絵柄に意味はあるの?」


俺は声を潜めて柏木さんに近寄った。


あまり大声で話せる内容じゃない。


別に会社の規則にタトゥー禁止というルールはないが、まだまだ保守的な国だ。


あまり自慢できることでもない。


柏木さんはちょと考えるように眉間に皺を寄せた。


聞いちゃいけないことだったのかな……


柏木さんがこんな表情するの珍しい。


「あ、やー。言いたくなきゃいいんだけど。ごめんね。変なこと聞いて…」


「意味なんてありませんよ」


俺の言葉に被せるように柏木さんは強く言った。


怒ってるってわけじゃなさそうだった。


ただ触れて欲しくはなさそうだが。


「そ、そう?」


俺は苦笑いを浮かべると、デスクのパソコンに向き直った。


ちらりと横目で柏木さんを盗み見ると、彼女はいつもと変わらず真剣な表情でパソコンに向かっていた。


俺は気付いた。


柏木さんのタトゥーにはやっぱり意味があって、今でもその意味を大切に思っているということを…


それは俺が…いや誰もが入れない禁域で、触れてはならない部分だった。






A lot happened.(色々あった)




ジェニーの置き土産の言葉がふと甦る。








< 180 / 697 >

この作品をシェア

pagetop