Fahrenheit -華氏-
「レーザーで消しました」
とさらりと言ってのける柏木さん。
レーザーで、って想像しただけで痛そう……
「嘘です。ファンデーションでごまかしてあるだけです」
と言ってタトゥーがあるだろう場所にそっと手を置いた。
え?嘘……
「あのさ…前から気になってたんだけど、タトゥーの絵柄に意味はあるの?」
俺は声を潜めて柏木さんに近寄った。
あまり大声で話せる内容じゃない。
別に会社の規則にタトゥー禁止というルールはないが、まだまだ保守的な国だ。
あまり自慢できることでもない。
柏木さんはちょと考えるように眉間に皺を寄せた。
聞いちゃいけないことだったのかな……
柏木さんがこんな表情するの珍しい。
「あ、やー。言いたくなきゃいいんだけど。ごめんね。変なこと聞いて…」
「意味なんてありませんよ」
俺の言葉に被せるように柏木さんは強く言った。
怒ってるってわけじゃなさそうだった。
ただ触れて欲しくはなさそうだが。
「そ、そう?」
俺は苦笑いを浮かべると、デスクのパソコンに向き直った。
ちらりと横目で柏木さんを盗み見ると、彼女はいつもと変わらず真剣な表情でパソコンに向かっていた。
俺は気付いた。
柏木さんのタトゥーにはやっぱり意味があって、今でもその意味を大切に思っているということを…
それは俺が…いや誰もが入れない禁域で、触れてはならない部分だった。
A lot happened.(色々あった)
ジェニーの置き土産の言葉がふと甦る。