Fahrenheit -華氏-

挨拶で口にキスしない。


その事実を知ってから、俺はがぜんやる気を出した。


柏木さんも俺のことをちょっとは男として見てくれてるってわけだよな!


ってなわけで善は急げっ!!


金曜日の夕方になって佐々木が席を外していることを確認すると、俺は柏木さんに近づいて小声で聞いた。


「柏木さん。今日の夜暇?」


書類を整理していた柏木さんは、ちょっと目を上げると、


「夜…ですか?」と聞いてきた。


「うん。や、暇じゃなかったら無視してくれていいんだけど…。夕食でも一緒にどうかな?って思って」


柏木さんは俺の目を探るように覗きこんで書類の束をデスクに置いた。


「いいですよ」


Yes!!!


俺は心の中でガッツポーズを作った。


ヤッターーーー!!正直半分は、いつもの調子で軽くあしらわれるか、断られるかと思ってたけど。


ダメもとでも聞いてみるもんだな。


「じゃぁさ、少し歩いたところにバラキエルって言うカフェがあるんだ。先に出てそこで待っててくれる?」


「バラキエル……堕天使の名前ですね」


え?そんなこと知らないケド。


でも、堕天使かぁ。意味合いがちょっとエロいかも…


そんな俺の考えを知ってか知らずか、柏木さんは無表情に俺を見上げると、


「バラキエルは人間の女性と交わることを誓って山に集まった堕天使の頭とされてます。最低ですよね」


とさらりと言った。



「あ……ハイ…」



俺は目を点にさせた。





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