Fahrenheit -華氏-
カフェバラキエルは半分がオープンカフェで、半分が室内カフェになっている。
外と中を隔てるのは、一枚の硝子窓で、俺が通りからちょっと覗くと柏木さんは奥まったテーブル席で一人本を読みながら、コーヒーを飲んでいた。
正直ほっとした。
あの柏木さんに限ってすっぽかすとかはないだろうと思ってたけど、正直待ってるかどうか気持ちは半々だったんだ。
結構待っただろうな。
俺は急いで店に入ろうとすると、柏木さんのテーブルに男が一人歩み寄った。
な!なんだ……?
思わず脚を止め、その様子を窺う。
柏木さんは顔を上げたが表情が少し迷惑そうに曇っていた。
口が動き、手がしっしっという仕草で振られている。
「ナンパか」
くっそ~!柏木さんをナンパするなんてどんな野郎だ。
10年……いや、100年早いんだよ!!
俺は慌てて店に入った。
「いいじゃん。さっきから見てたけど暇そうじゃ~ん。飲みに行こうよ」
男が柏木さんの肩に馴れ馴れしく手を置く。
「やめてください」
柏木さんが迷惑そうにその手を払った。そして俺の方を見ると、
「あ」と小さく声を発した。
「俺の連れに何かよう?」
俺は男の肩にぽんと手を置くと、男を見下ろした。
今後一切柏木さんに声を掛けられないように、思い切り睨みながら。
「わ!す、すみませんっ」男が慌てて背を向け立ち去っていく。
「ちっ!野郎連れかよ」と小さく捨て台詞を吐くのも忘れずに。
「ばーか」俺は男の背中に向かって悪態を吐いた。
お前ごときに柏木さんを落とせると思うな?
この俺様だって食事に誘うのに三ヶ月以上も掛かったんだぜ?