Fahrenheit -華氏-

「すっげー……」


俺は目の前に聳え立つタワーマンションを車の中から見上げた。


「そこを左折してください。地下のコーチエントランスに入れますから」


言われたとおり車を走らせると、ゆったりしたらせん状の道が地下に続いていた。


来客用の駐車場に車を停める。


う~ん……俺の車が見劣りしない…


ベンツやジャガー、レクサスと言った高級車が所々駐車されていた。


その中に柏木さんのLFAも停まっている。


天井を見上げると何台もの監視カメラがぐるぐるとゆっくり首を振っていた。


更にはエントランスへ続くエレベーターホールに警備員が突っ立て居る。


セキュリティも申し分ない。





大理石に囲まれたエントランスホールは日本の城や寺をイメージしてあるのだろうか。


落ち着いた和の設えだった。その中でちらりちらりと洋風の椅子やオブジェがあって、洒落ている。


たぶんだけど24時間在中の品のいいコンシェルジュがカウンター越しに、


「お帰りなさいませ。柏木さま」と丁寧に頭を下げた。


「ごくろうさまです」とこちらも慣れた様子でちょっと頭を下げる柏木さん。


う~ん…さすが、板についている。


仕立ての良いスーツを着用したコンシェルジュは俺をちらりとみて「おや?」という表情をした。


もしかして柏木さんがいつも連れ込んでいる男とは顔ぶれが違ったから?


それとも柏木さんが男を部屋に入れること自体が初めてだったから?




後者であってほしいと願いながら、俺は柏木さんの後をついていった。



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