Fahrenheit -華氏-
4705室。それが柏木さんの住む部屋番号だった。


つまり地上から47階ってこと。


「散らかってますけど」


と言って柏木さんは重々しい扉を開いた。


立派な玄関で靴を脱いで「お邪魔しま~す」と言って上がりこむ。


全体的に茶色にまとまった清潔感のある空間だ。


スリッパを出されて、


「あ、どうも」と遠慮がちに足を通す。


いかん、いかん。妙に緊張してしまう。


高級マンションだからか、それとも独り暮らしの女の家にあがるのが久しぶりだからか。


どっちにしろ、俺の心臓はさっきからドキドキされっぱなしだ。


まん前にはアイボリーホワイトの絨毯をひいた広い廊下が広がっており、突き当たりの手前にトイレが、突き当たりにはパウダールームになっているらしい。


柏木さんに案内され、ちらりと見たがどこに行ってもこざっぱりしていて清潔感がある。


俺のマンションもそれなりに値が張るが、柏木さんのところは格が違うって感じでどこも高級感溢れていた。


「こっちが、リビングです」


そう言って案内された部屋は実に二十畳近くある広い部屋だった。


「おぉ!」


俺は思わずため息のような驚きのような変な声が洩れる。


高い天井にはデザイン性の高い黒いコンパクトなシャンデリアがさがっており、一体何人座れるのだろうと思われるソファは、茶色と黒の葉模様のデザインで統一され、所々にスエードのクッションがセンス良く並べられている。


少し変わったデザインのローテーブルも洒落ていて、壁には百型のワイドホームシアターが据えられていた。



「映画を見ることが好きななんです」と言って柏木さんはちらりとホームシアターに視線を向けた。


まあこの大きさなら申し分ないだろうけどね。


それでもまるでモデルハウスのように豪華で、それでいてけばけばしくない適度な装飾が眩しいほどだ。


散らかってるって言ってたけど、それは謙遜でどこもかしこも綺麗に片付いている。


もの珍しそうに視線を巡らせていると、柏木さんはバッグをソファに投げ出して、



「何か飲みます?」と聞いてきた。



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