Fahrenheit -華氏-
サーーー……
俺の顔から血の気が引いた。
やっぱりあの時、裕二と喫煙室で話してたこと、聞いてたのか…
俺は目を瞑り、額に手をやった。
言い訳―――しなくちゃ…と思ったけど、言葉が出てこない。
俺ってこんなに不器用だっけ?
「他に女がいるでしょー!!」
と女に迫られたときでさえ、いつも俺は綺麗に逃げることができた。
言い訳なんて簡単に口から出た。
でも……
「いいんですよ。別にそんなことどうでも」
柏木さんはぞんざいに言った。
吐き捨てるような強いものじゃない。さっきの電話の相手に喋る口調でもなかった。
何ていうの?最初から期待されてないような、妙な諦めみたいなものが混じっている。
「そんなこと……?」
「言ったでしょう?お金とか体とかが目的の方がよっぽど明確で分かりやすいって。
だから最初から部長が私に近づいてきた理由なんて知ってました」
「柏木さん……」
何か……
何か言わなきゃ、と思ったけど言葉は出てこない。