Fahrenheit -華氏-
「美しい思い出ねぇ」
綾子がうっとりするように言った。
「どこが!ちっとも美しくなんかねぇよ!!あの時俺ぁ誓ったね!!何もしなかったから、あの子は俺の気持ちなんて知らずに遠くへ行っちまった。
今度ちょっとでも気になる女が出来たらガンガン行くってね」
「その歳で悟るなよ…」
裕二が苦笑いを浮かべる。
「でも案外……その相手ってお前の近くに居たりしてね?」
言っている意味が……良く分かりませんが…
俺がキョトンとしていると、裕二は俺の眉間に指をやった。
「だぁかぁらぁ!柏木さんだよ。もしかしたら、その相手って柏木さんじゃね??」
「んなアホな。そんな都合良いことってあるかぁ?」
俺は裕二のあまりにも現実離れした想像にちょっと笑った。
「ははっ…は」……ってはぁ―――!!!
ちょっと待て!!!
柏木さんは俺の親父の親友の娘だと言ってヘッドハンティングしてきた。
アメリカ居住の年代もほぼ合致している。
しかも極めつけは
『昔は父のお友達ご夫妻を家に招待して2家族で映画上映会をしてました。見終わったあとはお酒を飲んで映画について語り合うんです』
『うちの親も似たようなことやってたよ』
……え?
ええ―――!!?