Fahrenheit -華氏-

「Hi Lucy.It's been a long time.(ルーシー。久しぶりね)」


ルーシー……


“M”からじゃない。男からじゃない。


そのことにほっと胸を撫で下ろす。


俺、何でこんなにびくびくしてるんだ?


柏木さんは二言三言いって、「Can't it wait till I'm off work?(仕事中なの。終わったら)」と締めくくって電話を切った。


電話を切り終わって、朝の静けさが到来する。


な……


何を話せばいい?


俺ってこういうとき何を話してた?


だめだ。


思い出せない。


俺はちらりと柏木さんの横顔を窺った。


彼女は相変わらず綺麗な顔に、相変わらず完璧な無表情を浮かべている。



エレベーターがゆっくりと降下してくる。


ドキ…


ドキドキドキドキドキドキドキ…



だめだっ!


このまま柏木さんと8階まで二人きりなんて絶えられない!!


心臓が爆発する!


どうすれば!?


なんて一人焦っていると、


「「おはようございま~す」」と明るい二人組みの声が聞こえて、俺は振り返った。






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