Fahrenheit -華氏-

■Ammunition(爆弾)


―――


色々ハプニングがあったけど、どうやらマリちゃんは落ち着いて、30分遅れで式がはじめられることになった。


ホテルに隣接されているチャペルの長椅子に腰掛け、俺たちは新郎新婦の出番を待っていた。


「……あの…私、何でここにいるんでしょうか?」


俺の隣に座った柏木さんがちょっと困惑したように俺を見上げてきた。


「桐島とマリちゃんが是非参加してってくれって」


「でも私……こんな格好だし……」


柏木さんは自分の格好をちょっと見下ろした。


柏木さんの今日のかっこは、淡いピンクの裾がアシンメトリーになっているカーディガンの下に、グレーのブラウス。細身の白いパンツに、黒いパンプス姿。


今日も抜かりなくセンスが冴えている。




柏木さんのお陰で、彼らは結婚式を無事執り行えることができたのだ。


感謝の意を込めて、と言っても半ば強引に参加させられてる、という感じだ。


しかし柏木さんは二人の愛のキューピッドになったわけだから、その顛末を見届ける義務もあるわけで……


まぁ早い話、俺としてはそんなことどうでもいいんだけどね。


少しでも柏木さんの隣に居られることが幸せだし。


それに、結婚式に参加して柏木さんが感動して「私も結婚したいです」なんて思い直してくれたいいな~なんて、不純な動機を押し隠しつつも、俺はにっこり柏木さんに笑いかけた。


「いいじゃん。いつもどおり可愛いよ」


柏木さんは目だけをちょっと上げて俺を見た。


「部長は素敵ですね」


え!?ステキ!!


初めて褒められたかもっ!


どうしよう…嬉しい!!


「馬子にも衣装って言いますからね」


あ、ソウデスカ。スーツが良かったのね……



柏木さんは俺のドキドキと熱くなったハートを、相変わらずの冷たさで瞬時に凍らせてくれた。








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