Fahrenheit -華氏-
*寂しい女*



柏木さんは「寂しい」と言った。



初めて俺に脆い部分を見せてくれた。



電話の向こうで柏木さんが泣いていたときはびっくりして


どうしたらいいのか分からなかった。




できればそのときすぐにでも飛んで行って抱きしめたかった。


この腕で抱きしめて、彼女の涙をそっと拭ってあげたかった。






でも



彼女がそれを望んでないことを俺は知ってる―――






柏木さんが俺に弱いところを見せてくれて嬉しいけど―――――それと同じぐらい悔しい。








きっと彼女はわずらわしい過去を思い出したんだ。







忘れさせてあげたい。



寂しい、と思わないぐらい、いつも近くに居たい。



近くに居て






彼女を護ってあげたい。







でも俺は彼女に嫌われることを恐れて一歩も動けなかった。




もどかしい思いを抱えながら、俺はただ電話での彼女の声に頷くしかできなかった。















< 391 / 697 >

この作品をシェア

pagetop