Fahrenheit -華氏-

「柏木さん…帰ったんじゃ……」


「手伝います」


そう言ってファイルから取り出した書類の半分を手に取る。


「え?でも……」


「一人より二人の方が早いじゃないですか」


口の端にちょっと笑みを浮かべて、柏木さんは自分の椅子に座った。


「早く終わらせて飲みに行きましょう」


柏木さん……!!


嬉しすぎて俺は彼女に抱きつきたくなった。


って言ってもそうはしなかったケド。


とにかく彼女の助けはそれぐらいありがたかったんだ。





―――


「……ええ、それではお手数をおかけいたしますが、何卒宜しくお願いいたします」


最後の一件の電話をかけ終えたときに、時計はすでに22時を指していた。


でも思ったより早く終わることができた。


それもこれも柏木さんのお陰。


男性従業員の多い工場事務とのやり取りに、柔らかい物腰での対応の女性の声は彼らにとって警戒心と苛立ちを拭い去ることができたようだ。


もちろんそれだけではない。


相手を持ち上げての巧みな話術に、丁寧な口調も効いたようだ。


「終わりましたね」


柏木さんがにっこり笑って俺を見た。



キュン



俺、この人と仕事できて幸せだ―――




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