Fahrenheit -華氏-
“神流グループ㈱外資物流情報部”と長ったらしい名前を書いていると、テーブルの端の方で男どもの声がどっと上がった。
なんだぁ?と思いながら顔を上げると、
隅で、瑠華の両脇に居た経理の男二人が、腹を抱えて笑っている。
「何でタピオカ…柏木補佐ってこんなキャラだった?」と笑い声の合い間に声が聞こえた。
瑠華……君はいつになったらタピオカを忘れてくれるのかな??
「なぁんか意外っすね。もっととっつきにくそうな人だと思ってたのに♪」
とケラケラ笑っている男の心の扉はオープン。
瑠華は何がおもしろいのか分からないと言った感じで相変わらず無表情だったけど、その両脇の男は何やら楽しげ。
羨望の眼差しが、恋するものに変わりつつある気がする……
「柏木さんも…モテモテだねぇ」桐島が緊張感のない表情で、のんびり言う。
むっ!いかん!!
俺は桐島を引っ張ると、こそっと耳打ちした。
「ここってタピオカの入ったドリンクある??」
「ないよ」
俺の作戦はあっさり終了。でもでも、何を話してるのか分からないけど、楽しげな男たちの声を聞くと、俺は引くに引けない。
「なら作れ。今すぐに!」
「はぁ?」桐島は表情を歪めて、俺をちょっと睨んだ。
「何で…」と桐島に聞かれたとき、俺の視線は瑠華に向いていた。俺の視線の先を読んでか、桐島は納得顔で頷くと、
「ああ、なるほどね」と目を細めた。
「分かったよ。何とか考える」桐島はそう言って腰をあげた。
待て!桐島!!何が分かったんだ!お前は何を納得したんだっ!?
でもでも!この際細かいことはどーでもいい!
俺は立ち去っていく桐島の頼もしい後姿を見送った。