Fahrenheit -華氏-
「ほ、本当に付き合ってるんですか?」
男は緑川じゃなく、疑い深い視線で俺を見上げてきた。
信じられない、と言う感じで眉間に皺を寄せている。
ジャニーズ系の甘い顔立ちに、その睨みは迫力がなかった。テレビの中で若手俳優の下手な演技を見ているようだ。
俺はちょっと目を細めて男を見据えると、緑川の手を引いた。
「そうだよ。カレシ」
俺の言葉に男よりも緑川の方がびっくりしている。
おいおい、俺がとぼける気だと思ったんか?自分で振っておいて。
若干うんざりしたように二人を見下ろすと、
「俺のカノジョに何か用?」と言ってみた。
すると男の方は値踏みするように俺を見渡し、
「いえ。何でもないです」とあっさり引き下がっていった。
あとに残されたのは俺と緑川。
俺は自分の腕に絡まっている緑川の手をやんわりと引き剥がすと、
「これでいいの?」と感情のない言葉で言った。
「…は、はい。すみませんでした…」
俺は男が立ち去った方を見やり口を開いた。
「さっきの……」
「ありがとうございました!もう大丈夫です!!」
緑川は慌てて頭をちょっと下げ、逃げるように廊下を走り去っていった。
なんだよ…