Fahrenheit -華氏-


―――

―…

「瑠華!ごめん!!」


俺は目の前の瑠華に手を合わせ謝った。


瑠華は無表情に、「別にいいですよ」といつもの調子だ。


それにほっと安堵して、リビングに行くとソファに俺があげた筈のピヨコが転がっていた。


ぼろぼろになった黄色い胴体。シッポの先からちょっと綿が飛び出ている。






「ぎゃ~~!!ピヨコっ!!!」





――――

――…


自分の叫び声で、はっとなった。見慣れない車内であることに気づく。



「へっ?夢??」


「お客さん、だいぶお疲れのようですね」


タクシーのルームミラーの中で運転手のにやにやした視線と目が合った。


「…えぇ、まぁ」


………恥ずかしい。時間にしてほんの五分。俺はうたた寝していたようだ。


「それにしても酷い格好ですね。“これ”と喧嘩でもしたんですか?」


とタクシーのオヤジは小指を立てて、意味深に笑った。


「はは…」


「色男は大変ですなぁ」


はは……ってもう愛想笑いする気力も残されてねぇ。


六本木のマンションに到着するまで俺は眠ることを決意した。



もしかしたらもう一バトル(ガチで)あるかもしれない。


だから体力温存しておく必要がある。







< 644 / 697 >

この作品をシェア

pagetop