Fahrenheit -華氏-


「俺は一旦家に帰って準備してまた来るから、それまで準備しておいて」


まだ眠そうにしてる瑠華にそう言い置いて、瑠華のマンションを出た時間は朝の5時前。


慌ててタクシーでマンションに帰り、シャワーを浴びて髪をセットすると、荷物をまとめて今度は俺の車で六本木に向かった。


瑠華は俺の言いつけどおり、素直に化粧をして髪を巻いてる最中だった。


「どうしたって言うんですか。急に」


とちょっと不機嫌そうに鏡に向かっている。


ぶつぶつ言う瑠華を宥めて、彼女の支度が終わって、六本木を出たのは6時ちょっと過ぎ。


練馬インターチェンジから関越自動車道に乗り、藤岡ジャンクションから上信越自動車道に変わり、5分程走ったところで割りと大きな藤岡パーキングエリアで一旦休憩を取ることにした。


出てくるときは夜明けのうっすらとほの暗い空だったのに、あれから40分立った今は太陽がすっかり頭上に昇っている。


天気も好天。絶好の旅行日和だ。


建物内のレストランで朝食を済ませ、食後のコーヒーを飲んでタバコを吹かせていると、俺の携帯が鳴った。


ふれあい広場と称されただだっぴろい広場で、瑠華も同じようにタバコを吸っている。


着信を見ると裕二からだった。


何だってんだ?こんな朝早くから、と思いながらも、


「よーっす」と電話に出る。


『おっす!その声は起きてたか。相変わらず年寄りくせぇな』と一言余分な言葉を添えてくる。


「うっせ。何だよ、こんな早くに」


俺はちらりと隣のベンチの瑠華を見た。


瑠華は気にしてない様子で、灰皿に灰を落とすため腰を上げる。


白地のスカートは、上品な銀の刺繍が施してあるレースの二枚重ねに、風が吹くとゆらゆらと裾が揺れる。


う~ん…今日も素敵なお召し物で♪


なんて思いつつ、風もっと強く吹かねぇかな、なんてくだらないことも考えている。


『今どこよ?』


唐突に裕二は聞いてきた。





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