Fahrenheit -華氏-

飲み代は男四人で割り勘。


「私も払います」と言って聞かなかった柏木さんを、


「今日は柏木さんの歓迎会だから」と言って宥めた。


それでもちょっと不服そうにしていた彼女に、


「じゃ、次回払ってよ」とちゃっかり次があることを予告する。


「それじゃ、ごちそう様です」と渋々柏木さんが財布をしまうのに、結構な時間を要した。


店の前でタクシーを拾う。


やはりここは女性から、と言うことで反対側の柏木さんを先に乗せた。


「今日はご馳走様でした。おいしかったです。おやすみなさい」律儀に頭を下げ、タクシーに乗り込んだ柏木さん。


「「お疲れ~、また来週ね♪」」


俺と裕二はタクシーが走り出しても手を振っていた。





その数分後にもう一台のタクシーが捕まった。


「じゃ、お疲れ」桐島がスーツのポケットに手を突っ込んで、夜の道を歩いていく。


「おう、今日はサンキュー」


俺は桐島の背に向かって声を掛けた。


桐島はくるっと振り返って、「披露宴のスピーチ、啓人ヨロシクね」と笑顔を浮かべて手をひらひらさせている。


「めんどくせ」


そうは言ったものの、桐島の幸せそうな笑顔を見ると心から面倒くさいとは思えなかった。





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