月影

「そんなに心配なら、俺が勉強くらいみてやるのに」

政宗がにっこりと笑って言う。
深幸は半ば呆れたような顔をする。

「芸能人が何言ってんのよ」

拭き終えた食器を、食器棚に片付けていく。

「おいおい、俺、これでも頭は良い方だと思うぞ？」

作り終えたコーヒーを持って、政宗はソファに座った。
深幸も、食器を片付け終えたので、政宗の隣に座り、淹れてもらったコーヒーを一口飲む。

「そうじゃないよ。仕事。いっつも忙しそうにしてるくせに、人の勉強なんて見てる暇、ないじゃん」

甘い、でも少しだけ苦いコーヒーをまた、一口飲む。

「でも、教えるの上手かっただろ？」

にやりと笑う政宗。
深幸は、まぁ、と小さく頷いた。

「高校受験の時は助かったけど…」

でも、と続けようとしたときだった。

「予備校、キャンセルしろよ。俺が教えてやるよ」

有無を言わさぬ笑顔を向ける政宗に、深幸は肩を落とし、わかった、と頷いた。