【短編】10年越しのバレンタイン


もう十分だよね。
会えると思ってなかった人に会えた、それでいいじゃない。

「ありがとうございました」

10年前、お兄さんに出会ってなかったらきっと私は辛いトラウマを抱えてた。


だから、きっとここから新しい日々が送れるだろう。


私は、バッグを持つと立ち上がった。




「―――聞かないの?」

背後で、お兄さんが呼び止めるように言った。

「え?」

振り返った私が聞き返すと、お兄さんの目が真っ直ぐ私を捉えた。

「俺の気持ちは聞かなくていいの?」

思ってもない言葉だった。


聞いても、いいのかな?
少しは欲張ってもいいの?

「聞きたい、です」

再び大きくなってきた鼓動と、熱くなっている頬を感じながら私はそう言った。



「じゃあここ、もう一度座って」

私が大好きなあの優しい笑顔で、10年ぶりのお兄さんがベンチを軽く叩いてみせた。
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