オアシス


「あのね、私の知り合いは、ドラムの人。よく見といてね。まぁ、ドラムだから後ろだから見えにくいかも知れないけど……」

「了解。ドラムね」



私が言い切ってすぐに会場は暗くなり、黄色い歓声があがった。

「もうはじまるよぉ~!」

菜々は叫んだ。

オープニングの曲が流れたあと、ステージがパッと明るくなった。



キャアアァ~!



キャアアァ~!



再び黄色い歓声が。



一曲目がはじまった。

かなりノレるロックだ。



が、



しかし……



私は驚きのあまり盛り上がれずにいた。

今、歌っているこの男は私を中野駅まで連れていってくれた人だったから。

“あの、すみません。中野まで行きたいんですけどどうやって行けばいいんですか?”

必死で聞く私に、

“中野……俺、吉祥寺まで行くから一緒に行きますか?”

男はすごく親切な人だった。

私は、あの時のセリフを思い出した。

あの人が、どうして……。

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