オアシス
これしかなかった。

飛行機の時間まで、まだ余裕があったが私は家を出ようとした。空港でゆっくりしようと思ったから。


「じゃあ、行くね」


キッチンに立っている母親の後ろ姿に声をかけた。


「これ、持って行きなさい」


母親は、お弁当を差し出した。そして、


「お金、大事に使うんだよ。これ、お母さんのヘソクリ。これしかないけど……」


そう言って、五万円をくれた。


「……ありがとう」


遠慮もせず受け取り、財布へしまう。


「じゃあ、行ってきます」


母親は外まで見送ってくれた。私は何度も振り返る。そのたびに母親は、大きく手を振っていた。

笑顔で、手を振っていた……。

私は急に胸に何かが込み上げてきた。

お母さん……

ありがとう……

ごめん……

心の中で何度も何度も呟いた。最後まで心配してくれた母親に、感謝の気持ちでいっぱいだった。
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